CRAFTSMAN:
Shinichiro Tani
CATEGORY:
Odo Yaki
POTTERY:
Tani Seitosho
LOCATION:
Kochi, Kochi City
CRAFTSMAN:
Shinichiro Tani
CATEGORY:
Odo Yaki
POTTERY:
Tani Seitosho
LOCATION:
Kochi, Kochi City
谷さんが家業に入ったのは中学を卒業後、15歳のときでした。
窯に入った初日のことは、今でもはっきりと覚えているそうです。
「初日は菊練り(粘土に含まれる空気を抜き、硬さを均一にする仕上げの技術)を教えてもろうて。もちろん、できませんわね。それから、親父が菊練りした土で一日中、杯をつくって、次の日に削っては壊して。その繰り返しでした。これは、ほんまにできるようになるんかと思いました」
小学生の頃から手伝いはしていたものの、なかなか思うようにはいきません。父の横で見様見真似で、教わるというより、見て覚える日々が始まりました。
ただ、焼きものの仕事は、谷さんの性格にも合っていたと振り返ります。
「友達付き合いがあんまり得意やなかったので、一人で黙々とできるこの仕事は合っていたと思います」
以来、およそ40年間。谷さんは一貫して、ろくろと向き合い続けてきました。
作品を公募展に出品したり、ギャラリーで個展を開いたりすることもなく、問屋を通して県内の道の駅や土産物店で販売されてきました。
近年では、工房での陶芸教室に加え、幼稚園や小学校へ出向く出張教室も増えているそうです。
「いつ頃、一人前になれたと思いましたか?」
そう尋ねると、谷さんの謙虚な人柄がにじむ答えが返ってきました。
「いや、あんまり変わりません。窯で焼いたあとは、今でもほんとうに焼けちゅうかどうか、ドキドキします」
尾戸焼の最大の特徴は、能茶山で採れる赤土です。
鉄分を多く含み、焼成後は赤みを帯びた、あたたかみのある表情を見せます。さらに、耐火度が高く、かつて登り窯で焼かれていた時代でも、形崩れしにくい強度を備えていました。
谷さんが何より大切にしているのが、この土です。
工房から歩いて行ける距離の山へ自ら足を運び、掘り出した土を水に溶かし、砂や石を分離し、何度も濾過を重ね、陶土へと仕上げていきます。
「年に1回くらいですけど、3、4トンはつくりますね。こればっかりやったら1か月半。でも仕事しながらやったら、なかなか終わらんです」
決して効率の良い作業ではありませんが、「この土でないと落ち着かん」と谷さんは語ります。
「子どもの頃から触りよる土やき。他の土を使うと、どうも手が言うことを聞かんですね」
釉薬についても、藁灰や土灰は自分でつくっているそうです。
明治以降、民営化された尾戸焼では、味噌甕や水甕、土管などの大物が多くつくられていました。
しかし生活様式の変化により、現在は食器や酒器、マグカップなどが中心となっています。
そのなかの一つに、「可杯(べくはい)」があります。
これは、底が尖っていたり、穴が開いていたりして、飲み干すまで下に置くことができない、土佐(高知)に伝わる酒器です。酒豪が多い土地柄を象徴するうつわで、土産物としても人気があります。
「親父の時代に、土産物屋さんと一緒につくってみようって始まりました」
Wired Beansとの協業では、これまでにない製法にも挑戦しました。
ろくろでの成形を基本としてきた谷さんにとって、マグカップの本体をろくろで挽き、型で製作した取っ手を後から取りつけるのは、はじめての経験でした。
「最初は失敗ばかりでした。でも慣れてくると数もつくれるようになって、だんだんおもしろうなってきて。新しいことをやるのは大事やなと思いました。勉強になりましたね」
現在、谷さんは55歳。焼きものの道に入って40年を迎えました。
外に修業へ出ることもなく、同じ場所でコツコツと作陶に没頭してきましたが、新しい挑戦を楽しむことも忘れていません。
最近では、桂浜を管理する会社が運営するショップに作品を卸すことをきっかけに、海をイメージした青緑色の釉薬の開発にも取り組みました。
「高知の海の色を出したかった。深くて、ちょっと緑がかった色ですね」
〒780-8050
高知県高知市鴨部1366
088-844-4743

谷製陶所の5代目・谷信一郎氏が手がける「尾戸焼」のマグ。自ら掘り出した能茶山の土と、手作りの藁灰釉が生む乳白色の柔らかな質感が魅力です。貫入(ヒビ)が深まる風合いを愉しみ、日々に寄り添う贅沢な一品です。
最後に、これからのことを聞きました。
「子どもがおらんので、先のことは正直わからんです。ただ、やりたい人がおったら、育ててみたい気持ちはあります」
そう静かに語ったあと、こう付け加えてくれました。
「特別なものやなくていい。日常のうつわを、お客様が求めるものを、ちゃんとつくりたい」
土を掘り、土を練り、ろくろを回し、火を入れる。
その繰り返しのなかに、今日も尾戸焼の時間は流れ続けています。